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Wordpressを再評価する

WordPressを再評価する:忌避から理解、そして実用へ

2025年6月10日 | Tool

はじめに

WordPressは現在でも世界の43%のウェブサイトで利用されています(W3Tech調べ)。しかしながら実際のソフトウェア開発の現場でWordpressを活用した仕組み構築の話はあまり話題にはあがりません。
自身も長らくWordPressを敬遠してきました。理由はシンプルで、「巨大すぎるエコシステムを学ぶのが面倒そうだ」という先入観があったからです。また、近年はHeadless CMSやJamstackなど、よりモダンな構成が注目されており、WordPressはレガシーなツールのように見えていたのも一因です。

しかし、自社サイトをWordPressで構築し、仕様検討から運用までを一通り体験してみたことで、WordPressの良さを再認識することができました。

WordPressの再発見

一般的なモノリシックCMSとしての運用は言うまでもなく便利ですが、WordPressはREST APIやGraphQLにも対応しており、Headless CMSとしての構成も十分に可能です。さらに、膨大な数のプラグインが存在するため、要件に応じた機能をゼロから開発する必要がなく、効率的な構築が可能です。

WordPressと聞くと、「テンプレートを使ってサイトを簡単に作る」というイメージが先行しがちですが、独自のデザインを前提に構築することももちろん可能です。HTML、CSS、PHPの基礎知識があれば、WordPressのテンプレート内に自作の構造を埋め込みながら、自由度の高いサイト運用ができます。

WordPressのTemplateを作成するというと、ハードルが高く感じられますが、WordPressが規定しているファイルにheader.php, index.php, footer.phpなどにHTMLを記述することで自作Templateを作成することができます。

また、Localなどのツールを活用することで、ローカルで迅速に環境を構築・実験できる点は非常に魅力的です。かつてはXAMPPなどが一般的でしたが、Localの導入によって、特に初心者でも手軽に開発を始められる環境が整備されているのは、他のCMSにはない魅力の一つです。

さらに、テーマやプラグイン開発のための公式ドキュメントも非常に充実しており、WordPress Codexや開発者向けハンドブックに加え、ユーザーコミュニティによるナレッジも豊富に存在しています。初学者から中級者まで、情報を得やすく学びやすい環境が整っているのは、他のCMSと比較しても大きな強みです。

他のCMSとの比較

近年人気を集めているHeadless CMSは、API経由でコンテンツをさまざまなデバイスやチャネルに配信できる柔軟性が大きな魅力です。しかし、フロントエンドは自前で実装する必要があるため、デザイン設計からコーディングまで、初期段階でそれなりの開発コストがかかります。

その点、WordPressでは管理画面からテンプレートを選ぶだけで、即座に情報を公開できる手軽さがあり、このユーザビリティの高さは他にはなかなか見られません。また、WordPressのREST APIを活用することで、バックエンドにWordPressを使いながら、Next.jsなどのフロントエンドフレームワークで構築するハイブリッドな運用も可能です。

さらに、企業サイト・個人ブログ・ECサイト・メディアサイトなど、多種多様なユースケースでの実績が豊富であり、「使えるかどうか」ではなく「どう使うか」という視点で選べるのも大きな利点です。

セキュリティやパフォーマンスの観点でも、適切な設定と運用を行えば、WordPressは非常に高いレベルの性能を発揮します。例えば、WP Super Cache や W3 Total Cache などのキャッシュ系プラグインを導入し、CDNと併用することで高速なレスポンスを実現できます。

エンジニアの観点から見た価値

エンジニア視点ではどうしても「ゼロから作ること」や「自作の最適化」に魅力を感じがちです。しかし、現実のプロジェクトにおいては、納期・保守・拡張性など、総合的な観点からの選択が求められます。

WordPressは、豊富なプラグインとテンプレートにより、車輪の再発明を避けることができ、特に中小企業や個人プロジェクトにおいては、開発コストと時間の最適化が図れます。学習コストこそ多少かかりますが、その投資対効果は高いと感じました。

さらに、企業が自社でサイトを運用する際、社内の非エンジニア職でも更新作業が可能であるという点も大きな魅力です。カスタム投稿タイプやカスタムフィールドをうまく設計することで、専門的な知識がなくとも、一定のルールに従ったコンテンツ更新ができ、業務の属人化を防ぐことができます。

今後の活用と可能性

WordPressはオープンソースプロジェクトとして長年にわたりコミュニティに支えられ、常にアップデートされ続けています。Gutenbergブロックエディタの進化によって、ノーコード的なWebサイト構築の自由度も大きく向上しました。

こうした最新の機能を把握し、適切に活用することで、WordPressは単なるCMSではなく、Webプラットフォームとしての柔軟性と拡張性を備えた重要な選択肢となります。私たちエンジニアこそ、WordPressの構造やAPIを把握しておくことで、プロジェクトごとに「使うべき技術」の判断軸を持てるのではないかと感じています。

まとめ

かつての私のように、「WordPress=古くて学ぶ価値がない」と感じているエンジニアは少なくないかもしれません。しかし、実際に手を動かしてみると、その柔軟性・拡張性・学習資源の豊富さに驚かされます。

WordPressは、決して「古いだけのCMS」ではなく、今もなお進化を続ける強力なプラットフォームです。個人開発でも、企業の案件でも、選択肢として検討する価値は十分にあると実感しました。

御社でもぜひ一度、WordPressの再評価をしてみてはいかがでしょうか。