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Documentationとマニュアルの重要性 〜なぜ書かれないのか、どう根付かせるのか〜

Documentationとマニュアルの重要性

2025年7月14日 | Project Management

Documentationの価値は認識されているが、なぜ書かれないのか?

多くの企業では、「業務に関するDocumentationやマニュアルの整備は大切だ」と理解されています。
しかし、実際には必要な記録が残っていなかったり、古くなった情報が放置されていたりする現場も少なくありません。
特に、次のような環境では「書く文化」が育ちにくい傾向にあります。

  • 人の出入りが激しいプロジェクトやチーム
  • 常に納期や緊急対応に追われている職場
  • 属人的なスキルや経験に依存して業務が回っている現場

実際に「◯◯さんがいないと何も分からない」「手順は口頭で引き継いだだけ」という声が聞こえてくる場面も少なくありません。
では、Documentationを書くことを妨げているのは何なのでしょうか?

書かない理由(書けない理由)

Documentationが整備されない原因は、組織・チーム・個人それぞれのレベルで異なりますが、多くの現場に共通する理由は次のようなものです。

1. 時間がかかる

専門知識の整理、構成の設計、読み手への配慮など、単に「書く」だけでなく頭を使う工程が多く、1回の作成に時間を要します。
「やろうとは思ってるけど、急ぎの仕事に追われて後回しになる」──これは多くの現場の声です。

2. 優先度が下がる

Documentationは、明確な納期があるわけでも、直接的な売上に結びつくわけでもないため、日々の緊急対応や新規プロジェクトに追いやられがちです。

3. 評価されない・タスクと見なされない

上司や組織からの評価指標に含まれていない場合、「やっても報われない」気持ちが生まれます。

ある技術者は「ドキュメントを書いた時間は残業にもカウントされなかった」と話していました。

4. フォーマットがない、複雑に感じる

何を書けばいいか分からない、正しい書き方が分からない、という心理的ハードルがあります。テンプレートが整備されていないと、「書く」という行為自体がストレスになります。

5. 情報の陳腐化・維持の手間

「せっかく書いても、すぐ古くなるから意味がない」と考える人も多く、結果として放置されがちです。

それでも、Documentationは非常に大きな価値を持つ

Google Cloud の DORA(DevOps Research and Assessment)チームが発表した調査では、Documentationの品質が高いチームは、低いチームに比べて特定の領域において最大で50倍もの業務パフォーマンスの差が出るという驚きの結果が示されました。

この調査はソフトウェア開発に関するものですが、ナレッジの整備が業務効率に与えるインパクトは、製造業・建設業・物流業・教育・医療などあらゆる産業で同様に当てはまると考えられます。

Documentationは、属人的なノウハウを「組織の資産」に変える強力な武器です。

書く文化を根付かせるには?

Documentationを一時的な対策ではなく、業務の一部として定着させるには、以下のような取り組みが効果的です。

1. マネジメント層が率先して価値を示す

Documentationは「見えにくい成果」です。評価制度に組み込まれていなければ、現場では後回しになります。

  • ドキュメント作成を業務のKPIに含める
  • 「記録に残っていたから助かった」という事例を全体で共有する
  • ドキュメント作成の工数を正しく業務時間として評価する

マネジメントがこれらを積極的に行うことで、Documentationは「やっても無駄」ではなく「やる意味のある仕事」だと認識されていきます。

2. 生成AIや自動記録ツールを活用する

近年では、音声認識・要約AI・記録共有ツールが急速に進化しています。

  • Zoom / Google Meet の議事録自動生成
  • ChatGPTで議論ログを整理・構造化

例:週次ミーティングの音声を自動でテキスト化し、それをマニュアルの下書きとして活用する企業も増えています。
こうしたツールを導入すれば、「書く」ことの心理的・工数的な負担は大幅に減少します。

3. PDCAサイクルに組み込み、「活用されるドキュメント」にする

書いたドキュメントが使われなければ意味がありません。以下のように活用シーンを設計しましょう。

  • 定例会議でドキュメントを確認しながら振り返る
  • Slack等に「今週の改善記録」を共有する
  • チームで「どの資料が役に立ったか」を話し合う機会をつくる

「役に立った」という実感が積み重なることで、書く文化は自然と育ちます。

Documentationは、未来の自分と仲間への贈り物

Documentationは、「書いたその時」には利益を生まないかもしれません。

しかし、「記録がある」ことで未来の自分やチームが助けられることが、最大の価値です。

  • 担当者が不在でも、業務が止まらない
  • 新人が早く現場に慣れる
  • トラブル時に過去の対応を即座に参照できる

現場で「誰かにしか分からない仕事」や「記録が残っていない不安」を感じているなら、それはDocumentationの出番かもしれません。

未来の自分と仲間のために、今日の記録を贈ることから始めてみましょう。

参考資料

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