
AI時代に考えるプロジェクトマネジメント
プロジェクトマネジメントを見直す必要性
ChatGPTをはじめとする生成AIなどの先進技術の急速な発展により、ソフトウェア開発の現場は大きく変化しています。開発効率は飛躍的に向上し、AIがソフトウェアエンジニアの役割を代替し得るとの見方も広まりつつあります。
現に、エンジニア経験の有無を問わず、多くの人々が過去2年間でVenture Capitalから資金調達を受けてスタートアップを立ち上げています。大手企業もまた、生成AIの導入に積極的であることは明らかです。
しかしながら、生成AIを活用しようとする一方で、プロジェクトマネジメントの基本を軽視しているケースが目立ち、結果としてプロジェクトが迷走する例も散見されます。
特にマネージャーやチームリーダーがAIへの過度な依存に陥ることで、タスクの切り方や要件定義が曖昧になり、エンジニアが不確定な状況の中で詳細設計や実装を進めなければならない事態が増えているように感じます。
私見では、現時点でエンジニアのレイオフに踏み切るのは時期尚早であり、過去20年間に培われた開発手法やプロジェクトマネジメントの原則を無視してAIに頼ることは、かえって生産性の低下やエンジニアの負担増を招くリスクが高いと危惧しています
冷静な現状把握の重要性
とりわけ、技術に明るくない経営者やスタートアップ関係者においては、AIや最新技術のバズワードに翻弄されやすい傾向があります。
技術の導入は一見魅力的に映りますが、自社の体制やリソースに照らして適切に判断しなければ、導入それ自体がプロジェクト失敗の原因となることもあります。
したがって、まずは自社の現状と実行可能な範囲を正確に把握し、現実的な計画を立てることが何より重要です。AIはあくまで「補助的な手段」であり、基礎が固まっていない段階での過度な導入は避けるべきです。
プロジェクトマネジメントの基本が軽視される現状
最新技術のトレンドに目を奪われがちですが、プロジェクトの成功はむしろ基本の徹底にこそ依存します。
私たちが支援してきた現場では、しばしば「誰が」「何を」「なぜ」「いつまでに」「どのように」行うのかが曖昧なままタスクが割り当てられ、成果物の品質や納期にばらつきが生じています。
この傾向は、開発手法がウォーターフォールであれアジャイルであれ共通して見られる問題であり、生成AIの有無にかかわらず、プロジェクトの根幹に関わる重要な要素です。
5W1Hの重要性とタスクの明確化
5W1H(Who, What, When, Where, Why, How)は、コミュニケーションおよびタスク管理の基本的なフレームワークです。巷では6W2Hなどの拡張もありますが、まずは5W1Hを明確にすることが重要です。
これらを曖昧なまま進めると、チーム内での認識のずれや作業の手戻りが発生しやすくなります。生成AIを用いた場合でも、What・Why・Howといった条件が明確でなければ、期待通りのアウトプットを得るのは困難です。
一方で、タスクごとに5W1Hが整理されていれば、どの作業をAIに任せるべきか、どの作業は人間が担うべきかを判断しやすくなり、効率的かつ確実なプロジェクト遂行が可能になります。
継続的改善の文化(PDCA・CI/CD)の意義
PDCA(Plan-Do-Check-Act)サイクルやCI/CD(継続的インテグレーション/デリバリー)は、単なる開発手法ではなく、品質とスピードの両立を支える文化的基盤です。
生成AIを活用することで、プロジェクトの初期構築スピードは確かに向上しました。しかし、そのプロジェクトが保守性・可読性・拡張性を備えているかどうかは、最終的にはエンジニアの技量に大きく依存します。
2000年代前半のように、インターネットの普及とともに“コピペでつぎはぎ”のコードが蔓延した時代の再来になってはいないでしょうか。結果として手戻りが発生するような状況を防ぐためにも、PDCAやCI/CDの原則を事前に組み込むべきだと考えます。
AIや先進技術の活用は「局所最適」である
弊社では、生成AIを活用してサンプルコードの作成や定型業務の効率化など、局所的な最適化に取り組んでいます。また、業務自動化への応用についても検証を重ねています。
しかし、現時点では生成AIの出力にはハルシネーション(誤情報)のリスクがあり、開発以外の業務領域にまで汎用的に活用するには慎重な姿勢が必要です。
AIを活用したサービス上にさらにAIを重ねる構成では、ブラックボックス化や誤出力の連鎖が起こるリスクが高まります。この点は過小評価すべきではないでしょう。
技術選定とアーキテクチャ設計の重要性
技術選定は単に「新しい技術を採用すること」ではありません。ビジネス要件、運用体制、コスト、セキュリティ、将来の拡張性といった多角的観点から検討する必要があります。
また、アーキテクチャの理解やビジネス目的が不明確なまま技術導入を進めると、プロジェクトの遅延や破綻を招く原因となります。
生成AIを活用することでプロジェクトが自動的に前進するという考え方は、安易な期待であり、現実には大きなリスクを孕んでいます。
ブラックボックス化のリスクとその回避策
AIによって生成されたコードや構成は、しばしばブラックボックス化しやすく、トラブル時の原因特定や修正が困難になる可能性があります。
このリスクを軽減するためには、マネージャーやエンジニアがソフトウェアアーキテクチャや設計原則を理解し、Architecture Decision Record(ADR)などを用いたドキュメントの整備を行うことが不可欠です。
透明性と共有可能な知識ベースが整っていれば、トラブル対応力やチーム全体の学習速度も大きく向上します。
AI時代のプロジェクト成功のために
AIや最新技術の恩恵を最大限に活かすためには、まずプロジェクトマネジメントの基本を押さえ、5W1H、PDCA、CI/CDといった原則を組織文化として根付かせることが必要です。
同時に、技術選定やアーキテクチャの理解を深め、ブラックボックス化のリスクに備えたドキュメンテーションを充実させることによって、継続可能かつ高品質なプロジェクト遂行が可能になります。
生成AIはあくまで「道具」に過ぎません。プロジェクトの成否を分けるのは、それをどのように使うか、そしてどのようにチームを導くかという人間の判断に他なりません。