
モノリシックアーキテクチャで始めるツール開発
モノリシックアーキテクチャのメリットと活用シーン
モノリシックアーキテクチャとは、フロントエンドやバックエンド、業務ロジック、データベース接続など、すべての機能を1つのコードベースとデプロイ単位でまとめて構築する方式です。
機能ごとに分割された複数のサービスとしてではなく、1つのアプリケーションとしてまとまっています。
現在のWebアプリケーション開発では、サービスを細かく分割するマイクロサービスアーキテクチャや、SaaS・PaaSを活用したスケーラブルな構成が一般化しています。これらは、トラフィックの急増や可用性の要件に対応するための手法として確立されてきました。
しかし、クラウドやXaaS(Everything as a Service)の考え方が一般化する以前は、どうだったでしょうか?
単一サーバーで動くシステムが主流だった時代
当時は、アプリケーション全体を1台のサーバーにまとめて構成するのが一般的でした。たとえば、複数のプロセスに分かれていたとしても、それらはすべて同一マシン上に配置されていたのです。なぜなら、その方が圧倒的に「シンプル」だったからです。
- 異なるサーバー間でのネットワーク通信や認証を意識する必要がない
- ハードウェアの調達やクラスタ構成を考慮しなくてよい
- ログやリソースの管理も1カ所で済む
現代の開発環境を振り返ってみても、実は似たような構成を取っていることがあります。たとえば、高性能なMacBook Proで、VSCodeとDockerを使い、フロントエンド・バックエンド・DBすべてをローカルで立ち上げて開発している…というケースです。これは、実質的にモノリシックな開発環境とも言えるでしょう。
昔のエンジニアたちは、今のPCの何百分の一の性能しかないマシンで、仮想化技術も使わず、すべての機能を1台のサーバーに詰め込んで構築していたのです。耐障害性に関する知見や仕組みが未成熟だったにもかかわらず、それでも「動く」アプリケーションがしっかりと稼働していました。
モノリシックアーキテクチャの利点
モノリスには、以下のような明確なメリットがあります:
- 開発スピードが早い:単一リポジトリで全体を構成できるため、初期のMVP開発や小規模チームでの開発に向いています。
- デプロイが簡単:すべての機能が一体化しているため、1回のデプロイですべての変更を反映できます。
- システム全体の理解がしやすい:コードベースが統一されており、動作の流れが見通しやすい。
- インフラ構成が単純:複数サーバーやクラウドの高度な構成管理を必要とせず、1台で完結することも可能。
モノリスを選ぶべきシーンとは?
- プロダクト初期(MVP)で、機能を素早く実装し検証したいとき
- チームが少人数で、開発・運用の分担が難しいとき
- サービスのトラフィックが少なく、スケーラビリティがそこまで重要でないとき
- インフラ運用やクラウドコストを最小限に抑えたいとき
一方で、以下のような場合には、モノリスから脱却し、段階的にマイクロサービスやXaaSの活用を検討する必要が出てきます:
- リクエスト数が急増し、スケーラビリティがボトルネックになってきた
- 開発チームが拡大し、変更が互いに干渉しやすくなってきた
- 障害の局所化や継続的デリバリーを実現したい
モノリシックアーキテクチャの具体例とフレームワーク
アプリケーションとフレームワークの例
- WordPress:LAMP構成で、単一のPHPアプリケーションとして動作
- Djangoアプリケーション(Python):プロジェクト全体が一つのリポジトリで構成され、WebとDBロジックが一体化している
- Ruby on Rails:MVC構造が統一されたモノリシックアーキテクチャが基本
- Laravel(PHP):認証やDB操作、ルーティングなどがすべて含まれており、一体型で構築可能
- Spring Boot(Java):単一のjarファイルでWebアプリケーションとして完結する設計
開発目的としての例
- 社内業務アプリや管理画面(例:社員情報管理、請求管理)
- 中小企業の予約管理システムや簡易CRM
- プロトタイプ/PoC(Proof of Concept)開発
- スタートアップでの最初のサービスローンチ時
結論:無理に分割しないという選択
モノリシックアーキテクチャは「古いアーキテクチャ」とされがちですが、用途によっては現在でも最適解です。クラウドやマイクロサービスの文脈は、必ずしもすべてのプロジェクトにとっての前提ではありません。
まずはモノリシックに作り、スケールに応じて分離・進化させるというアプローチこそ、現実的で持続可能な選択と言えるでしょう。
すべてを初めからマイクロサービスで作る必要はありません。必要なタイミングで分ける。それが現代的な開発の柔軟さでもあります。
参考